お盆に話したい実家のこと。「空き家」にしないための相続対策
お盆の時期を迎え、久しぶりにご実家へ帰省される方も多いのではないでしょうか。家族や親戚と和やかな時間を過ごす中で、「親も高齢になったけれど、この家は将来どうするんだろう?」と考えることはありませんか。親が元気なうちは、なかなか話し合いが難しい実家の問題ですが、何の準備もしないまま相続を迎えると、仲の良かった兄弟姉妹が財産をめぐって対立する「争族」に発展しかねません。その最大の火種となりやすいのが、現金のように簡単に分けられない「不動産」、つまりご実家です。
この記事では、旭川市近郊でも深刻化しつつある「空き家問題」に焦点を当て、実家の相続で起こりがちなトラブルと、それを未然に防ぐための具体的な対策について解説します。
1なぜ「実家の空き家」が問題か? 放置が招く3つの深刻なリスク
「親が亡くなっても、家はそのままにしておけばいい」と考えるのは非常に危険です。空き家の放置は、経済的にも精神的にも大きな負担となります。
(1) リスク1:終わりのない経済的負担
誰も住んでいなくても、不動産を所有しているだけでコストは発生し続けます。
固定資産税・都市計画税:空き家であっても毎年課税されます。「特定空家」に指定されると、土地の固定資産税の軽減措置が適用されなくなり、税額が6倍に跳ね上がる可能性があります。
管理コスト:草刈り、修繕費、火災保険料などが継続的に発生します。遠方に住んでいる場合は、管理のための交通費も無視できません。また、旭川市内の場合、冬期間の積雪により、落雪被害が生じる可能性もあり、雪下ろしや適切の保険をかける必要があります。
(2) リスク2:近隣トラブルと法的責任
管理されていない空き家は、地域社会にとって危険物となりえます。
倒壊・部材の飛散:老朽化した建物が台風や地震さらには雪の重みで倒壊し、隣家や通行人に被害を与えれば、所有者として損害賠償責任を問われます。
犯罪に巻き込まれる可能性:人の気配がない家は、放火や不法侵入、不法投棄といった犯罪に巻き込まれる可能性もあります。
「特定空家等」への指定:周辺環境に著しく悪影響を及ぼしていると自治体に判断されると指定され、最終的には行政代執行によって強制的に解体され、その費用(数百万円にのぼることも)が所有者に請求されます。
(3) リスク3:取り返しのつかない資産価値の低下
木造家屋は人が住まなくなると驚くほど早く傷みます。特に旭川のような雪国では、厳しい冬が建物の寿命をさらに縮めます。重い雪による構造の歪みや水道管の凍結・破裂など、ダメージが積み重なると資産価値はみるみるうちに下落します。
2 相続で実家が「共有名義」になることの落とし穴
遺産分割の話し合いがまとまらない時、「とりあえず法定相続分で兄弟の共有名義にしておこう」という選択をしがちです。しかし、これは問題を先送りにするだけで、将来さらに深刻なトラブルを引き起こす「時限爆弾」を抱えるようなものです。
共有名義の不動産には、管理行為(賃貸など)や変更・処分行為(売却や解体など)に際して、共有者の持分を基準に、その合計が全体の半分を超える賛成や共有者全員の同意が必要など、様々な制約があります。
さらに恐ろしいのは、時間の経過とともに権利関係が複雑化していくことです。亡くなったりすれば、権利者がネズミ算式に増えていき、全員の同意を取り付けるのが困難になっていきます。
3 実家の相続、4つの具体的な解決策
(1) 解決策1:売却して現金で分ける(換価分割)
最も公平で、後のトラブルが少ない方法です。実家を売却して得た現金を、相続分に応じて分配します。
(2) 解決策2:誰か一人が相続する(代償分割)
実家に住み続けたい相続人がいる場合に有効です。その人が実家を単独で相続する代わりに、他の相続人に代償金を支払います。その場合、相続した人が、実家を賃貸に出して家賃収入を得るなどの方法も可能です。ただし、初期投資や継続的な管理業務が必要で、その物件の立地や状態で借り手が見つかるかの見極めが重要です。
(3) 解決策3:相続放棄
実家以外にめぼしい財産がなく、親に借金がある場合などの最終手段です。相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。また、法改正によって、相続放棄をした場合でも、実家の管理義務を一定期間負担しなければならないことがありますので、注意が必要です。
4 【最も重要】親子が元気なうちにできる「3つの生前対策」
相続が始まってからでは解決が困難な問題が多くあります。最も効果的なのは、問題が起きる前に備える「生前対策」です。
(1) 対策1:家族で話し合う(家族会議)
親が元気なうちに、親の意向と子それぞれの考えをオープンに話し合いましょう。お盆で家族が集まる機会は、その絶好のチャンスです。
(2) 対策2:「遺言書」を作成する
家族会議でまとまった親の意思を法的に有効な形で残すのが「遺言書」です。確実性と安全性を考えるなら、公証役場で作成する「公正証書遺言」をお勧めします。
(3) 対策3:「家族信託」の活用
「家族信託」は、親が元気なうちに信頼できる子に財産の管理や処分を託す仕組みです。親が将来認知症になっても、受託者である子が実家の売却などを進めることができます。
5 まとめ:旭川の皆様の「円満な相続」のために
実家の相続と空き家問題は、決して他人事ではありません。先送りにすればするほど解決は難しくなり、家族の絆にまで亀裂を生じさせかねません。「何から話せばいいか分からない」「兄弟の意見がまとまらない」「どんな対策が最適か知りたい」といった不安やお悩みをお持ちでしたら、私たち法律の専門家にご相談ください。このお盆が、ご家族にとって大切な未来を考える実りある時間となることを心から願っております。
専門家のアドバイスが必要になった時には、いつでも大箸󠄀法律事務所へお声がけください。皆様の「円満な相続」を、全力でサポートします。